■長生きの愛煙家…?
世界ではほぼ、タバコの健康への悪影響が政治の世界でも一般社会でも認められているのですが、
日本はまだまだの感がぬぐえません。
それに関連して時々こんな話が聞かれます。
「タバコを吸っていなくたって早死にする人はたくさんいるし、長寿で有名だった泉重千代さん
(ギネスにも乗った昭和時代の長寿スター)は愛煙家だった」-だからタバコが健康に悪いなんて言えないじゃないか、
というわけです。
人間は身近な出来事にひっぱられがちで、全体の傾向まで思いが至らないのはよくあることです。
よくよく考えてみると、タバコを吸っていなくて早死にした人もいるかもしれませんが、
タバコを吸っていて早死にした人はもっとたくさんいるのです。
「幸運な生き残り」であった泉重千代さんのエピソードだけで、全体的なタバコの影響を判断してはいけないのです。
次のお話にはもっとだまされやすいかもしれませんが、いかがでしょうか。
「この町には80歳以上の男性が10人いて7人は結構な喫煙家です。
長生きしているのは喫煙家の方が多い。タバコは本当に身体に悪いのでしょうか?」
確かに数字を見るとこの町では喫煙している方が長生きのようです。
単にこの町は例外で、他の町を広く見渡せば、喫煙者の方が長生きできない、ということがわかるのでしょうか。…
実はどこの町を調べてみても、出てくる数字はこれと似たり寄ったりなのです。
そして、それにもかかわらず、喫煙している方がやはり寿命が短いのです。
このトリックを見破ることができますか?
そのカギは「分母」に注意することとデータを断面ではなくて「追跡」で調べることです。
20年前の様子を想像してみましょう。
この町に60歳以上の男性は100人いたとします。
そのうち喫煙者は80人、非喫煙者が20人でした(昔は男性の喫煙率は8割を越えていました)。
ここから追跡をスタートして20年後の現在に戻ります
もと100人いた町の男性も80歳を越えるまでに多くの方が亡くなって、結局、
初めに喫煙をしていた7人と喫煙をしていなかった3人が生き残って合計10人になりました。
つまり、80歳までの生存率を考えると、喫煙者は7人/80人で9%、非喫煙者は3人/20人で15%となり、
長生きする確率が高いのは非喫煙者という結果が得られます。
“トリック”はこの計算ではなくて、生き残りの人間だけ見せて「タバコを吸っている方が長生きだ」、
という情報を流す方なのです。
情報を評価する時には、分母を見ること、横断研究ではなく追跡研究を大事にする、
というEBM(Evidence-Based Medicine=科学的根拠に基づく医療)や疫学の基本技を知っていれば、
こんなトリックにひっかからずにすむわけです。
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