かつて昭和の軍隊では古参兵による新兵への鉄拳制裁はもちろん、
凄惨なリンチまでが、教育、訓練として黙認されていた。
軍当局は、建前上、リンチを強く戒めていたが、それに耐える精神が強靱な
帝国軍人を育てるという不文律が組織を支配し、上官も見て見ぬふりをした。
さすがにリンチとまではいかないが、戦後になっても、日本の組織人にとって、
上司らが部下を厳しくしつけ、しごき、失敗には制裁を与え、それに部下が
歯を食いしばって耐えることは、一種の美徳とされていた。
下が愚痴や苦情を吐き出せば、「辛抱が足りない」と逆に評価を落とした。
そのため若手は、暴君らの陰口は叩いても、面と向かって逆らうことは、
なかなかできなかった。
仕事ができなくても、暴君に擦り寄り、うまくやり過ごす要領の良い狐ども
の方が評価されたりもした。
したがって若手は、暴君の顔色を見ながら、嫌でも忖度せざるを得なかった。
いま振り返れば、そんな暴君や狐が、結果的に若手を心身共に鍛えたケースも
確かにあったのだとは思う。
しかし、理不尽が堂々とまかり通る世の中が健全なわけがない。
元上司の妻子2人を猟銃で殺害するなど、たまりにたまった鬱憤が爆発し、
上司だけでなくその家族の命まで奪う事件が当時から起こっていた。
「パワハラ」という言葉が定着し、ようやく官民で防止のための取り組みが
強化されたのは、元号が変わった2000年代に入ってからのことだが、
それは、人々の意識の変化であり、進歩であったと思う。
返信する