戦後の日本が堅持してきた「専守防衛」の原則を逸脱する恐れは大きくなるばかりだ。
自民、公明両党は相手国領域内でミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保有すると合意した。
他国からミサイルなどによる武力攻撃が発生した場合の「防ぐのにやむを得ない必要最低限度の措置」で、自衛権行使の範囲だとするが、発動のタイミングや対象は曖昧である。国際法違反の先制攻撃につながる懸念は拭えない。
安全保障政策の大きな転換にもかかわらず、歯止めは見当たらない。その必要性やリスクについて議論を尽くしたとは言えず、国民に対する説明はほとんどない。
反撃能力は従来、敵基地攻撃能力と呼ばれてきた。改称しても本質は変わらず、反撃だけでなく、敵が攻撃すると認定すれば行使できるとされる。
自公合意では、攻撃着手認定のタイミングは、国際情勢や相手の意図などを「総合的に判断する」とした。攻撃対象も「軍事目標」を前提に、必要最小限度の措置の範囲で「個別に判断する」としている。
いずれも明示を避けており、解釈や対象が広がる可能性は否定できない。
発動要件では、米国など密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」時も理論上は含まれるという。集団的自衛権の行使も視野に入ってくる。
抑止力の強化というが、本当に熟慮しているのか。米国の戦争に巻き込まれる可能性や相手からの再攻撃、全面戦争に発展するリスクなどをどう判断したのか。
公明は慎重姿勢とみられたが、現行のミサイル防衛システムでの阻止は困難との認識で、自民側の考えをすんなり受け入れた。自任していた「歯止め役」になり得ていない。
自衛隊の防衛出動に必要な国会承認を、緊急時にどのように得るのかも疑問だ。
反撃能力を行使するため、政府は敵の射程圏外から攻撃可能な国産の長射程ミサイルの運用を目指す。それまでの抑止強化策として米国製巡航ミサイル「トマホーク」約500発を購入する計画もある。
これらの装備を賄うために、政府は来年度から5年間の防衛費を最大43兆円とする意向だ。本年度までと比べて1・5倍超となる。岸田文雄首相は、これまで国内総生産(GDP)比約1%で推移してきた防衛費を、2027年度に2%へ引き上げる方針を示している。
国の借金は1200兆円を超える中、財源確保の見通しがないまま突き進んで、国民の理解は到底得られまい。
東アジアの情勢緊迫やロシアのウクライナ侵攻を口実に、軍備拡張へ前のめりな姿勢に危うさを禁じ得ない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/89011e6bd87de59ec9b03...
返信する