「食事に本当に困っておられる方、かけうどん一杯無料」。日雇い労働者が多く集まる大阪市西成区のあいりん地区でこう
した看板を掲げ、生活困窮者に一杯のかけうどんを無料で振る舞う店がある。立ち食いそば・うどん店「淡路屋」。店主の
大前孝志さん(48)が、新型コロナウイルス禍の約4年前から始めたサービスだ。「うどん一杯で心に余裕ができたら」。
無料提供は生活に行き詰まり犯罪に走った自身の経験から。空腹が満たされれば、心も落ち着く―。そう信じている。
◆「本当に救われた」
飲食店や簡易宿所(簡易宿泊施設)が立ち並ぶ西成のあいりん地区。淡路屋はその一角にある。大人4人ほどが座ることの
できる長椅子が設置され、まるで屋台のような店構えだ。
大前さんがこの地で店を始めたのは平成29年10月。それまでは紆余(うよ)曲折の人生だった。
高校を中退し、仕事を転々とした。暴力団に入り、けんかや恐喝を繰り返し、薬物に溺れて服役したことも。21年にはラ
ーメン店を開業したが、人間関係のトラブルで閉店。その後、フィリピンへ渡った。
いつしか所持金も尽き、首都マニラ郊外の街で3日間、空腹に耐えながらうずくまっていたとき。高齢の女性が声をかけて
くれた。「おなかが空いているでしょう」。ジェスチャー交じりでこういわれ、女性の家に招かれた。家に入ると山盛りの
米と現地の肉料理をふんだんに振る舞ってくれた。
「本当に救われた」。涙をぼろぼろ流しながら食べたことを今でも鮮明に覚えている。
「受けた恩を今度は周りの人へ返したい」と決意。帰国して淡路屋をオープンさせた。
◆おなか満たせば心も…
「一杯無料のかけうどん」を始めたのは新型コロナウイルスが流行したころ。客足が遠のき、仕入れたうどんを廃棄する日
もあった。「どうせなら」と生活が困窮している人を対象に無料提供を始めた。
鰹(かつお)風味のやさしいだしのうどんはほっとする味。かけうどんは250円で、一般客にとっても安価だ。
「おなかが減っていると『恐喝したろ、万引したろ』とか悪いことをつい考えてしまう。おなかが満たされ心に余裕ができ
れば、そんなことは考えへん」。自身の経験からこう力説する。
ある日、80代ぐらいの作業着姿の男性が店にやってきた。男性は店の前で帽子を脱ぎ、「一杯だけ食べさせてください」
と頭を下げた。
泣きながらうどんを食べる男性。「自分の体が動くうちは国の世話になるのは筋違いだ」と生活保護を受給せずに、建設作
業員の仕事を転々としていたが、3日間食事をしていなかった。
しばらくして男性はまた店にやってきた。「あれから仕事が見つかり、今は住む場所もあります。ありがとうございました」
と礼を言われた。日焼けした男性の表情は気力にあふれていたという。「たかがうどん一杯やけど、それで元気に立ち直っ
てくれたら本望。いつでも食べにきてほしい」と振り返る。
◆ユーチューブ配信も
……続く
https://news.yahoo.co.jp/articles/6f113033d3cd3f67dfbaf...
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