が、よく考えてみると無理もないことだった。
オレの住んでいる東京郊外の多摩地区には、ウマいモノを食わせる店が都内に比べて極端に少ない。
要するに、この地区に住んでいる者の大半は美味しいモノを追求しようとする余裕がないのである。
よって、食に対する貪欲さがなく、いい食堂やレストランが育たないのだ。
なのにである。
病院の中にある、こんな何の飾り気もないサ店のカレーピラフが…。
オレは翌日から何かに憑かれたように、このサ店に毎日通うようになった。
そして、カレーピラフとナポリタンが特に素敵なことが判明した頃には、
妹の見舞いなど完璧にどうでもよくなり、日によっては妹の病室に顔を出すのを
忘れることさえあった。
ところが、その妹が病院から退院してしまうと、途端に困った問題が浮上してきた。
院内にある、そのサ店に行く理由がなくなってしまったのである…。
そして、さらに悪いことに、同店のカレーピラフやナポリタン抜きの日々を重ねているうちに、
何と言うか、こう…つまらないことで妙にイライラするようになり、原稿書きの仕事が極端に
進まなくなってしまったのである。
ということで、オレは2月に入った現在でも同サ店に通い続けているのだ。
が、冷静に考えてみると皮肉な話である。
同サ店が入っている国立災害医療センターは、言ってみれば板谷家のかかりつけの総合病院である。
つまり、オレはこの先、病気になれば否が応でもココに来なくてはならないし、それどころか多分、
ココのベッドで死を迎えるはずである。
そんな所にカレーピラフやナポリタンを食べるためだけに、好き好んでセッセと通っているのだ。
ま、これだけでも充分に情けない話だが、つい2日前にさらに情けない思いを味わうハメになった。
その日、オレが同サ店に入っていくと、そこで働いている女店員たちの「来たっ」
という声が耳に入ってきた。
そして、テーブルに着こうとしたら、彼女たちのコソコソ話の中に「ピラフ水牛」
という単語が入っていたのである……。
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